自転車のチェーンが外れてしまった。
夜8時過ぎ。工場に高校生らしきお嬢さんがやってくる。
「すいませ~ん」
「ハイ~、 ハイ、何でしょうか?」
「ちょっとチェーンが外れてしまって・・・直してもらえますか?」
「ハイ、ちょっと待ってね」
カチャカチャ、カチャカチャ。
(よし。チェーンは大丈夫だ、あれ?ブレーキと空気圧も甘いか・・・)
キコキコ・・・キュキュ・・・
(一通り見る・・・大丈夫そうだ)
「終わったよ」
「ありがとうございます!」
いつもお世話になっておりますメカニックさんが夜、自転車の修理をしたそうです。 たまに起こるチェーン外れ。 男ならば一度くらいは手を汚しながら直したものだが、年頃の女性にはそんな話は無縁なのかもしれない。
茨城県の高校生=チャリ。 ほどの付き合いだが、その女の子は自宅で美味しい手料理をふるまっているのだろう、手の汚れるチェーン作業は専門外だ。 いくら踏んでも前に進んでくれない・・・失意のどん底の時、ちょうど車の整備工場が目に入る。
自動車を扱っている人だ、自転車もやってくれるであろう。 そのお嬢さんの鋭い眼力が見事に的中し、チェーンを洗浄しながら、かつ正確に組んでいく。 さらに空気圧&ブレーキの調整までしてくれるではないか。 なんと親切なメカニックさんだ。
ここは牛丼屋か? と思わせるほど、素早く正確に出てきた自転車はいつもの通り、私に翼を与えてくれる。 チェーンが外れた自転車くん、さっきまで蔑んだ目で見てごめんね。これからもよろしく!
出来上がった自転車に満足感を覚えながら、メカニックさんに頭を下げ、そそくさと帰ろうとする・・・。
それを見守りながら
(はぁ。 まあ、いいけど、ちょっと言っとくか・・・)
料金をとるつもりはないが、これは基本的にマナー違反だ。 どこの現場でも業界の常識というものはあると思うが、基本、プロに働いてもらったら対価が発生する。 情報や技術というのは物ではないため軽視されがちだが、
「メカニックに点検してもらう」
「庭師に剪定してもらう」
「パソコンをプロに設定してもらう」
これがアマチュアなら話は別だが、その業界で飯食ってるプロに頼むのは冗談では失礼だ。 私たちでいえば、買ってくれた(これからも含む)お客様に対して、有意義な時間を過ごしてもらうための場を提供する。
「ほかで出ていたヤツのほうが安かったから!」
という場合も全く問題ありません。 が、遊びに行くのはその店に行ってください。それも含めてのクルマ&店選びだと思います。それと相場を調べるときもそうね。 中古車なんて一台と同じ状態はない。 だから
平成25年式 5万キロ 黒 100万円
平成24年式 2万キロ 白 130万円
平成27年式 9万キロ 白 110万円
平成25年式 3万キロ 青 90万円
と、情報があって
平成26年式 3万キロ シルバー
の個体があったら、どれをどのくらいまで参考にして価格を決めるか。 プリウスのように溢れている個体であれば、情報を打ち込めばポン!と出てくるけど、限られた台数しかない個体は相場を読むのに苦労する。 上記の情報以外にグレードや状態でも大きく変化するしね。
車の不具合箇所でも
「ダメなところ教えてもらえますか? あとは自分でやるので!」
という方がたまにいるみたいです。 それと同じことをお医者さんにも言って欲しいよ。
「体がだるいんですけど、何が原因ですかね・・・。 それを教えてもらえば、自分で合う薬をカワチで買って寝ますから!」
たまたま居合わせた俺が
「直しましょうか?」
と声をかけたわけでなく、向こうから頼んできたのだ。 少し厳しくもあるかもしれないが、これくらいは言っておこう。
「ちょっと、お嬢さん。 隣で見ていたと思うけど、指示されたチェーンをしっかり直したんだ。 こうゆうときは「いくらですか?」くらいは聞くもんだよ」
自転車の旗は立ててはいないが、昔は自転車の組み立て、修理もお金をもらってやっていた。一応、言っておいた
「あ、すいませんでした。 おいくらでしょうか?」
「いいよ、大丈夫だよ。 気を付けて帰りなよ」
そんな感じで送り出そうと思っていると・・・
「あ、そうですか! わかりました! ありがとうございました!!」
シャー、と元気に帰っていく自転車。
呆気にとられた真冬の夜。 夜風が身に染みるぜ。
とご報告を受けました。たまにはメカニックさんに温かい肉まんを買っていこう。